『あなたのことはそれほど』——不倫を美化しない、いくえみ綾の恐ろしさ
不倫を描いた漫画は数あれど、「不倫って素敵」とも「不倫は絶対悪」とも言わずに、ただ人間の底をじっと見せてくる作品は多くありません。いくえみ綾さんの『あなたのことはそれほど』は、その数少ない一つです。
どんな話?
主人公の美都は29歳の既婚女性。ある日、小中学校の同級生で初恋の相手・有島光軌と偶然再会し、不倫関係に落ちていきます。有島も既婚者。つまりW不倫です。
有島は妻の出産を機に関係を終わらせようとしますが、美都は自分にも夫がいることを明かした上で、関係の継続を求めてしまう——。タイトルの「あなたのことはそれほど」が誰から誰への言葉なのか、読み進めるほどに意味が変わっていく構成が見事です。
「FEEL YOUNG」で連載され、単行本は全6巻で完結(祥伝社)。2017年には波瑠さん主演でTBS火曜ドラマ化され、美都の夫・涼太を東出昌大さん、有島を鈴木伸之さん、有島の妻・麗華を仲里依紗さんが演じて話題になりました。
この作品の怖さは「夫」にある
ネタバレにならない範囲で言うと、この物語の心理劇を一段深くしているのは、美都の夫・涼太の存在です。「鈍感でお人好しな夫」に見えた男が、妻の不倫を知ったとき何を考え、どう振る舞うのか。感情を爆発させる修羅場よりも怖い「静かな豹変」は、この作品の白眉です。
この漫画が「効く」人
- 恋愛感情の「ずるさ」も含めて、人間を描いた物語が読みたい人
- 修羅場の絶叫より、心理戦のひりひりが好きな人
- ドラマ版を観た人(原作はさらに容赦がありません)
ひとこと処方箋
甘い薬ではありません。どちらかというと苦い薬です。ただ、恋愛の綺麗な部分だけ見て失敗した経験がある人には、この苦さがワクチンのように効きます。全6巻、週末で読み切れる長さです。